チタンの陽極酸化をDIYする方法(リン酸編)
チタンといえば酸化被膜によってとても鮮やかな色の外観にすることができるというとても面白い性質があります。
この特性を利用してアクセサリーやコップなどをチタンで作っているものも多くあります。
そんなチタンの酸化皮膜を自宅で綺麗につける方法をご紹介します。
今回はリン酸という薬品を使って電気を流す陽極酸化という手法を使う方法です。
チタンの陽極酸化とは
冒頭で述べましたようにチタンは酸化皮膜の厚さによって様々な色に見えます。
これは光の干渉が原因でこのような現象が起こっていますが、この酸化被膜の厚さをコントロールすれば思いの色を発色させることができるのです。
この厚さをコントロールする方法が様々ありますが、一般的に行われている方法が電気を利用する陽極酸化という方法です。
電気を流すとその電圧によって酸化皮膜の厚さが一定の厚さになります。
その原理を利用するものなのですが、その電圧などの条件がネット上にはほとんどなく、また、専門書もなかなか少ないです。
自分でやろうと思ってもどうすればいいのか分からないので色々自分で試すしかないのですが、せっかくならブログで公開して同じように陽極酸化を自分で行おうとされている人の時間を節約していただければなと思っております。
準備するもの
チタンの陽極酸化に必要なものは以下のようなものがあります。
- 整流器
- 溶液
- 陽極
- 陰極
- 溶液を入れる容器
この中で溶液というのが様々な種類があり、今回はリン酸というものを使用した結果をこの記事にまとめています。
硫酸を使用する方法もありますが、そちらは別の記事にまとめています。
溶液以外のものは全て共通しており、溶液以外のものは全てこちらの硫酸の記事にまとめておりますので溶液以外のことが気になるという方はこちらの記事も合わせてご覧ください。
リン酸
リン酸もネットで購入することができます。
私は以下のものを購入しました。
ネット通販で購入できるものの濃度がよくわからないですが、おそらくほとんどが”85%以上”という表記だと思います。
ネットでも色々と検索してみましたが、リン酸といえば85%?のような感じだったので、これで問題ないのかなぁと思われます。
陽極酸化の方法
実際にどのように作業するのかですが、細かい解説も前述の硫酸編の方にまとめておりますのでそちらの方をご確認ください。
溶液の準備
溶液の関しては濃度の調整が必要になります。
リン酸を使用する場合、どのくらいの濃度にするべきかグーグルで検索できる論文を色々とみてみましたが、10%〜20%というのが良さそうだったので今回は10%に調整することにしました。
元々の濃度が85%以上ということでしたが、85%と考え、計算すると8.5倍に希釈すれば良いということにあります。
200ml調整してビーカーに入れたいので23mlのリン酸をとり、そこに200mlになるように水道水を入れました。
前処理
実際に電気を流す前にチタンの表面を化学的に綺麗にして酸化反応がスムーズに進むようにしてあげます。
この前処理はエッチングという工程とスマット除去という工程があります。
40Vまでの青系の色を出すのであれば前処理をしなくても綺麗な色が出ますが、特に純チタンで高電圧部の色を出したい場合は必須です。
詳しい方法はこちらの記事にまとめています。ぜひ合わせてご覧ください。
試した条件
このような条件で以下の電圧設定、時間で実際にチタンを陽極酸化してみました。結果は表と写真でまとめています。
いずれも工業用純チタンを使用しています。
1から8までは鏡面光沢仕上げのもの、9から24はエッチングを繰り返し、マット調になったものを使用しています。
それと電圧をかけるときは溶液にチタンをつけた状態で電圧を上げるようにしましょう。
低電圧では特に問題になりませんが、高電圧では一気に電気が流れるせいか火花が出やすいようです。火花が危ないということではなく、色が綺麗に出ません。
No. | 電圧 | 時間 | 結果 |
---|---|---|---|
1 | 10V | 10分 | 若干黒っぽい黄色 |
2 | 16V | 5分 | 濃い紫。黒っぽい。赤みも強いか |
3 | 20V | 10分 | 濃い青紫 |
4 | 38V | 10分 | 水色 |
5 | 60V | 10分 | 黄色。1よりも白っぽい |
6 | 80V | 10分 | 茶。ピンクっぽくも見える。 |
7 | 100V | 8分 | マット調のリングを使用。鮮やかな色がつかなかった。 |
8 | 114V | 10分 | マット調のリングを使用。鮮やかな色がつかなかった。 |
9 | 110V | 約30秒 | 若干灰色がかった色。緑 |
10 | 105V | 約30秒 | 若干灰色がかった色。緑 |
11 | 100V | 約30秒 | 緑色。黄色みが強く、ライムグリーンという感じ。 |
12 | 95V | 約30秒 | 緑色。若干青みがある。 |
13 | 90V | 約30秒 | 緑色。青みが増した。 |
14 | 85V | 約30秒 | 青 |
15 | 80V | 約30秒 | 青紫 |
16 | 75V | 約30秒 | 赤紫 |
17 | 70V | 約30秒 | 赤紫 |
18 | 65V | 約30秒 | ピンクっぽい紫 |
19 | 60V | 約30秒 | ピンク。黄色みもある。 |
20 | 55V | 約30秒 | 黄色 |
21 | 50V | 約30秒 | 黄色。若干色が薄め |
22 | 45V | 約30秒 | 黄色?水色?色が少し薄い。 |
23 | 40V | 約30秒 | 水色 |
24 | 35V | 約30秒 | 青 |
それぞれの条件でできた色の写真はこちらです。前半は鏡面光沢に仕上げたチタンを使用しています。この頃はエッチングなどの前処理の知識がなかったので特に前処理もせずに直接電気を流しています。
ここからはマット調に仕上がったチタンです。ここからはエッチングなどの前処理をしています。
No.7、8で灰色ががかった色と書きましたが、No.9以降は前処理をしっかりと行ったため、同じ電圧にしても灰色がかることがなく、綺麗に発色しました。それでも110Vでは若干灰色っぽくなりましたかね。
この灰色がかる現象は火花電圧という現象と関連していると思われます。
チタンに電圧をかけていくとある電圧を超えたときに火花が発生するようになります。
この火花が出る電圧以上の電圧をかけると色が綺麗に発色せずに灰色がかった色になります。
この火花電圧は溶液によって異なるようでリン酸と硫酸ではリン酸の方が火花電圧が高いようです。
そのため、緑などの高電圧の色を出したい場合はリン酸を使用したほうがいいです。
硫酸での電圧と色調の関係はこちらの記事にまとめていますので、もしよろしければ合わせてご覧ください。
リン酸濃度の影響
ここまでご紹介した結果はリン酸濃度10%での色調でした。
濃度が変わるとどうなるのかも気になったので調べてみました。その結果が以下になります。
リン酸濃度10%で110V前後では緑色でしたが、1%以下にするとほぼ同じ電圧でピンク調の色になりました。(灰色がかったピンクといった感じ)
1%と0.1%を比較しても低い濃度の方が低い電圧で同じ色調に至っています。
つまり、濃度が薄いほど酸化皮膜の成長が早いということだと思います。
そのため、高電圧の色である緑などが欲しいときは濃度を薄くした方が良さそうです。
ただ、どこまでも薄くすれば良いと言うことではなさそうです。
0.01%まで下げて実験してみたところ、同じ電圧で似た色を得ることはできていますが、色がかなりまばらです。
おそらく電流がうまく流れず、反応が安定していないということなのだと思うのですが、薄くしすぎるのもだめみたいです。
濃度が濃い方が酸化皮膜の成長が遅いということは微妙な色のコントロールをしたい時は濃度が濃い方が良いかもしれません。
溶液の捨て方について
使用し終わった溶液は基本的には別の瓶の入れて保存しておいた方が良いでしょう。
もし廃棄したいということであれば自宅の排水溝には流さずに少量であれば古布などの染み込ませて燃えるゴミで廃棄、大量であれば購入した業者に廃棄を依頼してほしいと市の水道局の方から回答いただきました。
私は廃棄が必要になったら古布に染み込ませて廃棄しようと思っています。
りんは川などに流れると微生物や藻などの栄養素となり、川などの生態系を崩してしまう恐れがあり、その濃度は厳しく管理されています。
少しだからといって自宅の排水溝からは流さないようにしましょう。
正確なことはお住まいの水道局にお問い合わせいただくと確実だと思います。
酸化皮膜の除去方法
このように実験しているとテストピースがすぐになくなってしまうと思います。
そんな時は簡単に手に入る洗剤で酸化皮膜を溶かすとやり直しが簡単です。
まとめ
いかがだったでしょうか。
硫酸とリン酸を混ぜて使うという論文もありましたので、りん酸と硫酸を混ぜた場合も試してみたいと考えており、これは今後、記事にまとめようと思います。
また、硫酸とどのような違いがあるのかも今後まとめていこうと思います。
No.7と8で書きましたが、鏡面光沢加工をしていないチタンのリングを使ってみたところ全く綺麗な色にならず、灰色っぽい色にしかならなかったので、基本的に鏡面光沢にしたものを使用した方が良さそうです。
チタンの指輪を鏡面光沢にする方法についてはこちらの記事でご紹介しておりますので、ぜひこちらも合わせてご覧ください。
今後も様々な条件を実験しようと考えており、その度に上記の表を更新していこうと思っておりますので定期的に訪問していただけると嬉しいです。
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