チタンの酸化皮膜を作る陽極酸化のDIYでの作り方(硫酸編)
チタンというと軽くて強度が強いというイメージがあるでしょうか。
金属アレルギーが出にくいということでアクセサリーでの用途も多いですし、医療用にも色々と使用されています。
そんなチタンにはとても面白い特性があり、酸化被膜の厚さによって非常に鮮やかな色調を帯びるという性質があります。
この酸化被膜は科学的な操作によって安定した、均一な厚さで生成することができ、さまざまな色をコントロールして作成することができるのです。
今回はそのチタンの酸化被膜を作製する一つの方法として電気を使用した陽極酸化という方法を自宅で行う方法をご紹介したいと思います。
チタンの陽極酸化とは
冒頭で申し上げたようにチタンの酸化被膜を生成する一つの方法が陽極酸化です。
以前の記事で加熱することで酸化被膜を生成させて、色をつける方法について書きました。
加熱するということでも酸化被膜を作成することができますが、この場合だと、温度を一定にするのが難しく、均一な酸化被膜の生成が難しいという欠点があります。
チタンの酸化皮膜は他にも電気を流すことで酸化被膜を作る事ができます。
電気を流す際は+(陽極)とー(陰極)という電気の入口と出口のようなものがありますが、チタンを陽極側に置いて電気を流すことから陽極酸化と呼ばれています。
電気を流すことで酸化被膜を生成する場合、電圧の高さによって生成される被膜の厚さが異なり、ある電圧では一定の厚さまでしか成長しないという性質があるため、加熱する方法よりも均一な色調を得やすく、色調のコントロールも容易という特徴があります。
チタン表面に酸化皮膜があると、光がチタン表面で反射する際に通常の光とは波長がずれて反射します。
そのずれた波長の光と通常の光で干渉し、特定の波長になり、それが色々な色に見えるわけです。
酸化皮膜の厚さによって波長のずれ方が変わるため、酸化皮膜の厚さによって色がコントロールできるというわけですね。
ちなみに光の反射によってその色に見えるため、チタンそのものがその色になっているわけではありません。このような色を構造色と言います。今は古いですがCDやDVDの読み込む面は角度によって虹色に見える部分がありますが、これも構造色です。
さて、長くなってしまいましたが、チタンの酸化皮膜による色調変化に関してはこちらのサイトがわかりやすかったので気になる方はご覧ください。
準備するもの
さて、前置きはこのくらいにして、まずは陽極酸化に必要なものをご紹介します。
- 整流器
- 溶液
- 陽極
- 陰極
- 溶液を入れる容器
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
整流器
整流器とは電気を流すための機械です。
陽極酸化の要です。
個人で買おうとするとすごく高そうですが、Amazonでは1万円以下で非常に多くの種類の整流器が販売されています。
陽極酸化の場合、電圧によって色調が変わってくるので流せる電圧の幅が広い方が良いと思いましたので、私はwanptekというメーカーの120V/3Aのものを購入しました。
おそらく中国のメーカーのもので、説明書が中国語と英語です。
私は中国語の方が得意なので中国語の方を読みましたが、正直、全然詳しく書かれていませんw
おそらく読めなくても問題ありません。詳しい使い方は後述します。
ちなみにコンセントを電源につなげる際にアースアダプターというものがないと接続できません。
ご自宅にアースアダプターがないという方はご一緒にご準備ください。
溶液
陽極酸化を行う場合、薬品を介してチタンに電気を流します。
その時に使う薬品によって酸化被膜のでき方が違うようです。
いろいろな文献を読みましたが、チタンの陽極酸化では硫酸か、リン酸が使用されているようです。
今回の記事では硫酸を使用した場合の方法をご紹介します。
硫酸も、リン酸もネット通販で購入できます。
陽極(製品接続用の治具)
陽極にチタンを使うわけですが、整流器とチタンを接続しなければなりません。
整流器からは理科の実験で使ったような赤と黒のコードがついています。
この赤いコードとチタンを繋ぐわけですが、その繋ぐための道具が必要になります。
これは基本的には電気が流れるモノであればなんでも良いと思います。赤いコードについているクリップでそのまま挟んでもいいです。
赤いコードのクリップをそのまま使用するとなるとあまり安定しなく、作業しにくくなってしまうので私はステンレスの針金を使用しました。
ステンレスにもいろいろな種類のステンレスがあり、この針金はSUS304という種類のものになります。
普通、このような薬品につける可能性があるものはSUS316を使うものですが、ホームセンターに売っていなかったので、これを購入しました。
使用頻度も少ないと思うのでおそらく問題ないです。
2021/02/25追記
ステンレスのワイヤーを陽極として使用するとステンレスの方に電気が流れてしまい、溶液につかないようにすればいいですが、対象物を液全体に漬けたい場合は、チタンの針金を使った方がいいです。
このチタンの針金は純チタン製ですが、同じ材質のワイヤーを使用することで電流が針金のほうだけではなく、しっかりと対象物にも流れます。
陰極
薬品を介して電気を流す場合、陰極も準備する必要があります。
陰極も電気が流れるものであれば基本的には問題ないと思います。ただ、硫酸につけるのである程度、耐食性がある金属が良いと思います。
陽極酸化に関する文献を読んでいると陰極もチタンを使用しているようですが、陰極用のチタンを調達するのも大変なので、こちらもホームセンターに売っているものを使いました。
こちらのステンレスの種類はメーカーのホームページなどでも書かれていなかったのですが、磁石にくっつかないのでおそらく304だと思います。
こちらを適当にカットして容器にセットしました。
溶液を入れる容器
硫酸を使用するので硫酸に腐食されない材質のものであればなんでも良いですが、樹脂やガラスのものを使用するのが無難かと思います。
ビーカーなんかも通販で購入できるのでそれを使用するのが雰囲気が出てかっこいいような気がしますが、私が行ったホームセンターには売っていなかったので園芸用の樹脂の容器にしました。
エッチング、スマット除去用薬品
陽極酸化で電気を流す前にチタンの表面を化学的に処理して酸化反応はスムーズに行えるようにする必要があります。
それには「1分できらり」という薬品と「オキシドール」が必要です。やり方はこちらの記事に書いていますが、高くない薬品なので絶対に準備した方がいいです。
手順
それではここからは実際のやり方です。
1, 道具をセットする。
まずは用意したものを接続します。
整流器に付属のコードは両端ともクリップのものではありませんが、私は作業性を考えてこれを購入し使用しました。
付属のものでも問題ありません。
黒いコード(陰極)は整流器の黒いところに、赤いコード(陽極)は整流器の赤いところに接続します。
ビーカーの中には硫酸(10%)を200ml入れています。
メッシュの1角を少し折り曲げてクリップを挟みやすくしています。
陽極酸化したいチタンの製品をステンレスの針金に引っ掛けて、その針金をビーカーに縁に引っ掛けています。製品はは針金でぐるぐる巻きに固定するというよりは釣り針のように“し”の形にして引っ掛けるくらいでいいです。あまりぐるぐる巻いてしまうと製品と接している部分と接していない部分で反応が均一でなくなってしまいます。
ステンレスのメッシュの方が今回は陰極になるので黒いコードを接続し、ステンレスの針金の方に赤いコードを接続します。
ちなみに、この際にステンレスの針金は硫酸の中に入らないようにしましょう。ステンレスの針金が硫酸の中に入ってしまうと、そのステンレスを介して電気が流れてしまい、チタンへの電気の流れがよくわからなくなってしまうからです。
そういうこともあって、陰極にチタンを利用するのですが、今回は調達しなかったので、針金が硫酸の中に入らないように注意しましょう。
2, 製品を前処理する。
上の写真では製品をすでに取り付けていますが、取り付ける前に前処理をします。
製品の表面はいろいろな汚れで汚れています。手の脂が主なものになりますが、それを綺麗にします。
綺麗にするといっても手洗い用の洗剤などで洗う程度で良いと思います。本当はチタン用の脱脂剤などを使用したほうが確実だと思いますが、表面についている汚れは手の脂が主だと思いますので、これで問題ないと思います。
また、チタンの表面が鏡面光沢になっているか、ヘアラインかなど表面の粗さによっても発色が変わってきます。
私はDMM.makeで3Dプリントしたチタンを加工するつもりなのですが、出来上がりはかなり凸凹しています。
好みに合わせて表面を加工しておくことも必要でしょう。
鏡面光沢にする方法についてはこちらの記事でも解説していますのでもしよろしければ合わせてご覧ください。
また、通電させる前にチタンの表面を化学的に処理して、純なチタンが剥き出しの状態を作った方が綺麗に発色します。
この工程をエッチングとスマット除去と言います。
特に純チタンで高電圧でしか出ない緑やピンクを出す場合はこのエッチングとスマット除去がが必須です。
エッチングとスマット除去についてはこちらの記事でまとめていますのでぜひご覧ください。
3, 通電させる
整流器の操作方法
全て接続したら電気を流します。
この整流器は電源の電圧を選択できるようになっており、日本の場合は115Vを選択します。
東京は100Vの50Hzなので厳密にいうと表示と実電圧が変わってしまうと言うこともあるのかもしれませんが、とりあえず、電気は流せているのでこれでも問題ないかと思います。
起動ボタンを押すと電気が流れ始めます。
この整流器は操作できるものノブが4つありますが、上二つが電圧を操作し、下二つが電流を操作します。
整流器は電圧を設定値に保つ定電圧、電流を設定値に保つ定電流という2種類の制御がありますが、この整流器は自動でそれらが切り替わります。
全てのノブを0に合わせているとCCという文字が点灯していますが、上から3番目の電流のノブをゆっくりひねっていくとCVのランプが点灯します。そうなってから電圧のノブを回し、目的の電圧に表示を合わせましょう。
(基本的には定電流制御なのですが、設定している電流値に必要な電圧を下回る電圧値を設定すると定電圧制御に切り替わる。)
試した条件(電圧と色の関係)
では実際に試してみた条件とその結果を表にしました。これからもどんどん試していって、この表も更新していくので定期的に確認いただけるとより参考にしていただけるかと思います。
No. | 電圧 | 時間 | 結果 |
---|---|---|---|
1 | 10V | 10分 | 黄色 |
2 | 20V | 10分 | 青紫っぽい色だが少しくすんでいた。 |
3 | 30V | 10分 | 青白い色になったが、色が薄く、くすんでいた。 |
4 | 40V | 10分 | 黄色? |
5 | 50V | 10分 | 紫っぽい。色が薄い |
6 | 60V | 10分 | くすみが強い |
7 | 70V | 10分 | 赤紫っぽいか。やはりくすみが強い |
8 | 80V | 10分 | 赤紫。これもくすみが強い |
9 | 80V | 30秒 | 濃い青。くすんでいる。 |
10 | 75V | 30秒 | 赤紫。くすんでいる。 |
11 | 70V | 30秒 | 黄色、茶色。くすんでいる。 |
12 | 65V | 30秒 | 赤みがある黄色。くすんでいる。 |
13 | 60V | 30秒 | 黄色。くすんでいる。 |
14 | 55V | 30秒 | 黄色。くすんでいる。 |
15 | 50V | 30秒 | 青みがある黄色。くすんでいる。 |
16 | 45V | 30秒 | 緑。くすんでいる |
17 | 40V | 30秒 | 緑。くすんでいる |
18 | 35V | 30秒 | 水色。くすんでいる。 |
19 | 30V | 30秒 | 青。くすんでいる。 |
20 | 25V | 30秒 | 濃い青。くすんでいる。 |
21 | 20V | 30秒 | 濃い青。くすんでいる。 |
22 | 15V | 30秒 | 赤紫。くすんでいる。 |
23 | 10V | 30秒 | 茶。くすんでいる。 |
1〜7は同じチタンのリングを繰り返し使っていったせいか後半にいくにつれて色の発色がわかりにくかったです。
また、時間が長すぎたせいか全体的にくすみが強く綺麗な発色ではない。おそらく鏡面光沢になっていないもので実験したからだと思います。陽極酸化では基本的に鏡面光沢加工をしたものを使用した方が良さそうです。
2021/02/25追記
チタン号金の針金状のものを使ってテストしたのでその結果を追加しました(No.9〜No.23)。
全体的にくすんで見えますが、素地の状態がそれほど鏡面光沢がある状態ではなかったので、そのためではないかと思います。
80V以上の電圧だと火花が出ているのかばちばちと音がでて、煙のようなものが出たのでそれ以上の電圧では試していません。
火花電圧という一定の電圧を超えると火花がでる性質があるらしいので、そのせいではないかと思います。
リン酸系の溶液では火花がでる電圧が110v以上で火花電圧が異なるようなので高い電圧の色を出したい場合は硫酸を使用しないほうが良さそうですね。
リン酸を使用した場合の電圧と色調の関係はこちらの記事にまとめています。
廃液について
一応、最後に使い終わった後の処理についてもご紹介します。
毎回捨てているともったいないので基本的には使い終わっても別の便などの取っておいて使いまわした方がいいです。
しかし、そうは言ってもいつまで使える訳ではなく、いつかは使えなくなります。
そうなった時の処理方法なのですが、そのままの状態で家の排水溝には流してはいけません。
希硫酸は腐食性があるため、下水道の配管などを腐食してしまう可能性があります。
また、排水溝に流して良い液には決まり(下水道法)があり、pH5〜9の間でないと流してはいけません。(市の水道局の方に問い合わせたところこのような回答をいただきました。)
硫酸は強酸なのでpH1とかなのですが、排水溝に流す場合はpHを調整してから流す必要があります。
私はまだ廃棄ほどには至っていないので、使えないものが増えてきたらアルカリ性の液体を探して中和してから排水溝に流そうと思っています。
1人が家庭で行うことなので量はとても少ないですが、ルールは守りましょう。
酸化皮膜を溶かす方法
このように実験しているとテストピースがすぐになくなってしまいますが、酸化被膜溶かすことで簡単にやりなおすことができます。
チタンの陽極酸化を使ったアクセサリー
ここまでチタンの陽極酸化をDIYする方法をご紹介してきましたが、私はこの技術を使ってアクセサリーを作成しています。
例えば、こんな感じ。
こちらのサイトで販売していますのでもしご興味ございましたらぜひご覧ください。
まとめ
いかがだったでしょうか。
通電させる時間が重要そうになりそうです。
今後も色々と試してみて、いろんな実験結果を閲覧できる状態にしようと考えていますので、引き続きご覧いただけると嬉しいです。
チタンの陽極酸化ではリン酸もよく使われるようで、りん酸の方でも実験をしています。ぜひ合わせてご覧ください。
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