【書評】2030年アパレルの未来
AIの活用が叫ばれ、日常的にその単語が使われるようになってしばらく経ちました。
この1年ほどでAIという言葉が身の回りに馴染んできているように感じます。
5Gなど新しい技術と合わさって、業界の変化や私たちの働き方なども大きく変わろうとしています。
そういう社会の流れに置いてかれまいと焦りもありながら、どんな社会になっていくのだろうと楽しみに思っている部分もあります。
そういう社会的な流れの中でアパレル業界がどのように変化してきていて、これからどうなっていくのか、そういうことが書かれています。
全く新しくなっていくというよりはこれまでの業界のやり方がこれまで以上に効率化、最適化されてきていて、今後もそれが進んでいく、そういう印象を受けました。
在庫を作って大量消費
アパレル業界は大量生産、大量消費で成り立っている業界です。
古い資料ですが、こちらの資料によると世界では年間で20億本のジーンズを生産しているそうです。
多いと見るか少ないと見るかですが、4年ほどで世界の総人口分のジーンズを生産できる計算です。
ただ、実際はすべての人がジーンズを履くわけではありませんから、数だけで言ったら1年でかなりの量のジーンズを作っているのだと感じます。
なぜここまで多くなってしまうのか、ですが、私個人的な考えは在庫がその原因ではないかと思います。
買いにくる様々なお客さんに対して売り逃しを避けるために様々なサイズ、デザインの服を作ってお店に置いておく。そうなると実際に売れる数よりも多くの服を作らなければいけません。
実際に必要とするものよりも多くのものを作ってしまう。受給を合わせるのはとても大変ではありますが、こういう流れの中で大量にものを作ることが常態化してしまっているのが今のアパレル業界なのかなぁと思います。
AIを活用した受注予測、在庫適正化、自動化
お客さんの売り逃しを避けるためにいろいろな種類の在庫を作ると書きましたが、どんなお客さんがきて、その人たちがどのようなものが欲しいのかわかれば(予測できれば)、在庫を今ほど持たなくても良いかもしれません。
最近では、この予測の精度を上げるテクノロジーが飛躍的に高まってきているのだそうです。
このテクノロジーがアパレル業界を大きく変えているところなのだと言います。
例えば、テスト&リピートという手法。
初回ロットを少なくし、その売れ方からどのデザインをいくつ追加発注するのか決定するという方法。
H&MやZARAのファストファッションの手法ですが、AIを活用することによってそれをさらに高速で行うことができるらしく、その手法で凄まじい速度で成長しているのがイギリスのboohooという会社だそうです。
セールのタイミングやどのくらい下げるのか、などもAIのデータ解析から判断するそうです。
こうすることによって売れる商品だけ生産することができ、無駄な在庫を持つリスクはかなり低くなります。
画像解析の分野でもAIの進化はめざましいらしく、どのようなデザインが売れているのか、そういった解析も画像を使ってできるようです。
マスカスタマイゼーション
服を作る流れはデザインして、それを3次元にするために型紙を作って、それに従って生地を裁断して、縫製します。
おそらくですが、この型紙を作るという作業と縫製というところにはかなりのノウハウがあり、時間がかかる部分ですし、生産量、生産性などにも大きな影響を与える部分なのだと思います。
サイズが変われば型紙も変わってしまいます。サイズも人によって千差万別です。
こういった部分でも技術革新が起こっていると言います。
例えば、今のところ失敗に終わってしまっている印象が強いZOZOスーツ。
スマホと組み合わせて自動でサイズを採寸してくれるという仕組みですが、この採寸したデータを型紙のパターンに反映させ、自動で起こす仕組みがあれば(おそらくあるのだと思います)、服制作のリードタイムを大きく削減できるのだと思います。
実際、服のデザインを生地の質感まで再現できるCADソフト「CLO3D」というものがあり、パソコン上でかなり本物に近い3Dモデルを作成でき、さらにそれを型紙(2Dパターン)にすることが可能です。
さらに、縫製を自動化する「SEWBOT」という装置やニット1着を編んでしまうホールガーメントという装置もあり、縫製作業自体の自動化も進んでいます。
このようなことができると、自分の様々な部位のサイズをスマホに保存しておいて、気に入ったデザインがあれば、自分のサイズに合わせた自分だけの服を自動で作成してもらうということも可能になりそうです。
このようにアパレル業界でもマスカスタマイゼーションの流れは進んでおり、作り手側としてもよりニッチな分野を狙ってもビジネスとして成り立たせることが可能になっていくということかもしれません。
それでも必要なデザインとレコメンデーション
このような変化の中で本書ではそれでも人が必要になってくる分野はどこか、ということにも言及されており、それは「デザイン」と「レコメンデーション」です。
誰がアパレルを殺すのかという本の中でもデザインの画一化が日本のアパレル業界を悪くしたと書かれています。
やはり、どのようなデザインなのか、それが唯一無二なもので、人を魅了できるものなのか、そういったものがないと人に選ばれない。
そういうデザインをできる人、手法を強化していくことがこれからのアパレル企業に必要なことだと言います。
また、服をどのように選ぶのか、ということに関していうとInstagramなどSNSが発達し、人々の生活に根付いている現代、インフルエンサーの存在も大きくなっています。
誰に勧められたのか、ということが大きな意味を持ちますが、アパレル企業としてはショップ店員の強化もこれから生き残っていく上で重要だと書かれています。
服を作る上でデザイナー、パタンナー、マーチャンダイザーなど色々な役割がありますが、本書を読むと今後はパタンナー、マーチャンダイザーの仕事は自動化されていき、デザイナーや販売員ではより人間的な魅力が必要になっていく、そういう流れが今後のアパレル業界の流れだ、という印象を持ちます。
大きな変革期にあるアパレル業界
このような大きな変化が起き始めているアパレル業界ですが、私もその変化を感じ、新しい服の調達方法を体験したいと思い、NUTTEというサービスを使ってジーンズを作ってみました。
現状のNUTTEの流れではまだまだマスカスタマイゼーションという感じはしませんし、課題も多くあると感じましたが、このプロセスがより簡素化されて、自分の欲しいデザインを自分の体にフィットするサイズで生産でき、それが1週間とか短い時間でできるようになれば、私たちのファッションとの関わり方も大きく変わっていくと思います。
サスティナブルという言葉も最近はよく聞くようになり大手アパレル企業はこぞってサスティナブルが重要だとメッセージを出しています。
そういう意味でも大量生産、大量消費というビジネスモデルは変わっていかなければいけないですし、変わっていくのでしょう。
先端のアパレル企業のみならずそれに付随する付属品メーカーや生地メーカーもこの大きな流れに合わせてビジネスモデルを変化させていかなければ生き残っていけないのだろうとも思いました。
これからファッション業界に進もうとしている学生やすでにアパレル関連企業で働いている方はぜひ一読し、業界全体の進んでいくかもしれない方向の知識をつけるべきですし、その知識がこの本には書かれている、そういう風に思います。
製品完成までのリードタイムの大幅な短縮という意味では3Dプリンターも同様の効果を持ちます。
アパレルだけではなく、アクセサリー制作などでも同じような業界の変化が起きているのではないでしょうか。
私もサラリーマンの傍、独学でアクセサリー製作を始めましたが、デジタル化のおかげでかなり始めやすくなったと感じます。
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